エコのキーパーソンに聞く 地球と我々のためのエコスタイル

vol.2 「難しいことを目指しているんじゃない。ただ、もう少し多様性を認めあった 包容力のある社会になればいいと思う」
音楽プロデューサー 小林武史氏

3人のエコのキーパーソンに環境問題についてのお話を伺うシリーズ。第二回目は、環境プロジェクトに融資を行う「ap bank」の中心的存在でもある音楽プロデューサーの小林武史さんです。



閉塞状態だった90年代が終わり、 ようやく明るい兆しが見えた矢先の9.11

 小学生の頃から音楽に親しみ、洋楽、とりわけジョン・レノンに影響を受けて成長してきた僕にとって、「気持ちの解放」や「地球に国境はない」といった感覚は、音楽を通して育んできていました。ですから「エコ」についても、まったく素地がなかったわけではなかったのです。

 ただ現実問題として、こうした活動を行うようになったきっかけは、2001年9月11日に起きたニューヨークの同時多発テロでした。

 戦後から続いた右肩上がりの経済成長がバブル経済の崩壊を機に崩れ、社会全体が閉塞感に満ちていた1990年代。それが21世紀を迎え、少し明るい兆しが見えてきた矢先の事件です。強い衝撃を受けたと同時に、僕は逆に「世界はいろいろなところでつながっている」という思いを新たにしました。そして、この事件だけではなく世界で起こっているさまざまな出来事の原因を、「人のせいにしている場合ではない」と強く思ったのです。

 まず、アーティスト仲間との環境問題に関する勉強会の中で、自分たちに何ができるのかを考えました。そのなかで、みんなが地球のこと、自分たちの身の回りの社会のことを考えるようになれば、もっと暮らしやすい、居心地のいい未来が開けてくるという意識が高まっていったのです。

vol.1 東京大学生産技術研究所教授 山本良一氏 詳しくはこちら

女優 高樹沙耶さん 12/1更新

地球と私のためのエコスタイルフェアエコプロダクツ2006 12/4,15,16 10:00〜17:00 会場 東京ビッグサイト 入場無料



img1

<プロフィール>
音楽プロデューサー・キーボーディスト
小林武史さん

Mr.Childrenをはじめ、サザンオールスターズ、大貫妙子、井上陽水等、日本を代表する数多くのアーティストのレコーディング、プロデュースを手がける。1991年OORONG-SHA設立。Mr.Children、My Little Lover、レミオロメン、Salyuのマネジメント、レコーディング及びライブステージのプロデュースを行う。映画「スワロウテイル」(1996)、「リリイ・シュシュのすべて」(2001)、「メトロに乗って」(2006)等、映画音楽も多数手がける。2003年には櫻井和寿と中間法人「ap bank」を立ち上げ、環境プロジェクトに対する融資のほか、野外音楽フェス“ap bank fes”を2005年から2回に渡って成功させる。2005年に環境と消費を考える場として“kurkku project(クルック プロジェクト)”を神宮前に立ち上げた。

社会に何か還元しようと考えたら、「ap bank」「Kurkku」に行き着いた

 そうやって行き着いたのが、環境プロジェクトに融資する「ap bank」の設立でした。Mr.Childrenの櫻井和寿と坂本龍一さんと僕の3人が、自己責任のもとで拠出したお金を元にして「ap bank」を立ち上げたわけです。

 それまでもアーティストたちは、災害が起きたときや環境保護のために「エイド(AID)」と呼ばれるさまざまな資金支援活動を行ない、それは世界的な流れとなっています。でも、僕も櫻井も、もう少し個人的に、ずっと続けられることがしたかった。「ap bank」も基をたどれば、「音楽家として得た報酬を自分たちらしく社会に還元したい」という思いが出発点だったんです。もともとはCSR(企業の社会的責任)的な部分が強かったですね。

 そんな「ap bank」も、今までで34件、1億1,921万641円を融資。この秋には第5期審査が始まり、32件の申し込みがありました。社会還元という思いから発した「ap bank」ですが、バングラデシュのグラミン銀行(※)みたいになれたらいいと思っています。

 また、「ap bank」のフラッグシップショップとして、この春には「kurkku(クルック)」をスタートさせました。これは、快適で環境にもいい未来へシフトしていくための消費や暮らしのあり方を考えるプロジェクト。レストランやカフェ、ショップなどから成っています。スタートからまだ半年ほどなのですが、なかなかのすべり出しです。

 環境のことを考える「kurkku」が「モノを販売する」ということに、違和感を覚える方もいらっしゃるかもしれません。ただ、エンターテインメントを基盤とする僕らからすれば、「魅力的なモノに惹かれる」という行動を無視したくないな、という思いもありました。「エコ」の観点からすれば、「惹かれても買わない」という選択もあります。でも、通常の暮らしのなかで、それはあまり現実的ではありません。それなら、「魅力的で買いたくなるもの」が、その人にとって快適で、なおかつ地球環境にも優しいものであればいい、と考えたわけです。それに、日常もっとも近くにある「食」や「モノ」からエコ・シフトしていくというのは、思いのある生産者の方々を支えることにもつながりますし、多くの人に届き、将来的に大きな影響を生む可能性を持っていると思います。

(※)バングラデシュのグラミン銀行とは、貧困層を対象とした世界初の小額無担保融資(マイクロ・クレジット)事業を行っている。2006年にノーベル平和賞を受賞。

ap bank

自然エネルギーや省エネルギーなど、環境に関するさまざまなプロジェクトを中心に融資を行う非営利組織。音楽プロデューサーの小林武史氏、 Mr.Childrenの櫻井和寿氏、アーティストの坂本龍一氏の3名が自己責任のもと資金を出し合い、 2003年に設立された。

kurkku

快適で環境にもいい未来へシフトしていくための消費や暮らしのあり方を考えるプロジェクト。自然に育った素材が楽しめるレストランとカフェ、エコとデザインをテーマにしたセレクトショップ、環境や暮らしについての本が揃うライブラリー、暮らしを気持ちよくするグリーン(植木)の5つのショップからなっている。


無理をする必要なんてひとつもない 発想を少し変えるだけでエコロジーの醍醐味を実感できる

 とはいえ僕自身、四六時中、環境に優しい生活をしているわけではありません。仕事をしていればそうそうエコ・コンシャスにはなることができない。

 ただ、平日は無理でも、例えば週末、緑の多い道を自転車で走ってみる。そうすると、「空気ってこんなにおいしかったんだ」と実感できる。さらに、「明日もこんなにおいしい空気だといいなぁ」と思う。そうなってくると、だんだん環境保護に関心が出てくるし、「エコライフ」もかなり楽しいものになってくるんです。

 右肩上がりの経済成長のなかで、僕たちは少し「経済至上主義」に偏りすぎてしまったように思います。もちろん経済は大切です。でも、それだけがすべてではない。お金を稼ぐのが上手な人もいれば、料理を作るのが得意な人もいる。いろいろなものがバランスよく溶け合ってこその社会です。

img2

 音楽プロデューサーという仕事柄、新人を育てることもよくあるのですが、新人もまさに同じ。ただ歌がうまくてもダメなんです。やっぱりバランスがとれていないと、売れない。そう考えると、人にも環境にも快適な社会とは、多様性を認め合い、包容力のある社会なのかな、と思いますね。

 エコプロダクツ展は、まさにそうした社会へ一歩を踏み出すきっかけになってくれると思います。「エコ」とはどういうものなのか、「エコプロダクツ」にはどういうものがあるのか、自分の目で確かめてみることも大切だと思うんです。

 活動をしている間に、僕らの間で「eco-resonance(エコ・レゾナンス)」、略して「eco-reso(エコ・レゾ)」という言葉が生まれました。レゾナンスとは共鳴、共振という意味なので、「エコを共鳴していこう」という意味です。僕らのコンサートに来てくれる人たちの間では、この言葉はかなり浸透しています。エコプロダクツ展や「kurkku」を通して、「エコって何?」と言っていた人たちの間にも、「エコレゾ」という言葉が広がってくれればいいな、と思いますね。「kurkku」を立ち上げた以上、僕も時間が許せばエコプロダクツ展へ足を運んでみたいと思っています。


[PR]企画:日本経済新聞社 文化・事業局 制作:日本経済新聞社 電子メディア局
  NIKKEI NET ▲ 上へ 
日本経済新聞社案内採用日経グループご意見・ご感想
/ NIKKEI NETについて / 著作権について / プライバシーポリシー / セキュリティーポリシー / リンクポリシー/
 NIKKEI NET 広告ガイド新聞広告ガイド NIKKEI4946.com (新聞購読のご案内) 
(C) 2006 Nihon Keizai Shimbun, Inc. All rights reserved.